41 マケドニア人職人との会話


Novotel Wien Westにチェックインしたボクは
備え付けのバゲージカートをひきずって
クルマのところに引き返した。
駐車場から玄関までのアプローチには、緑の芝生の中に
サフィニアやマリーゴールドの植え込みがある。
花を眺めながら駐車場に戻る途中
植え込みを背にして休憩しているオヤジが目に止まった。
そばに停めてあるワンボックスカーのようすからして
ノヴォテルの内装工事にやってきた職人らしい。

しばらく一人で乗っていて、モンデオの中は散らかっていた。
前席の背もたれから後ろはゴミ箱だと思っているから
ミネラルウォーターの空瓶やらお菓子の包み紙が散乱している。
明日(22日)の夜からは、続く2つのGPが終わって帰国するまで
ずっとWさんといっしょに使うことになっているので
ここで片付けたほうがいい。
ボクは、クルマの中のものをすべてカートに載せ
とりあえず部屋に持ち込むことにした。
荷物満載のカートを押していると
内装工事のオヤジと目が合った。

白人ではあったが、独墺の顔ではなかった。
「すごい荷物だな…」
話しかけてきたのはオヤジのほうだった。
「どこから来たんだ?」
ボクが、自分の仕事のことや
なぜ今ウィーンにいるのかなどを話すと
オヤジも自己紹介をしてくれた。
マケドニア出身でリンツに住み
ノヴォテルの内装工事を仕事にしているらしい。

「オマエはいろんな国に行けていいなぁ…」と
オヤジがうらやましそうに言うので
「そっちこそ、オーストリアに住めていいなぁ…」と返事をすると
どうやら、オヤジはこの国があまり好きではないらしかった。
住みたいのはスイスだそうだ。

「日本はどうなのだ?」
「仕事はあるのか? 物価は安いのか?
部屋代はいくらくらいなのだ?」
矢継ぎ早の質問に
ボクはひとつひとつゆっくり答えるしかなかった。
オヤジの住んでいるリンツのアパートは
約50平方メートルで
家賃は約500ドイツマルク/月だということだ。
高すぎるので、もうちょっと安いところに引っ越したいらしい。

マケドニアのことを質問してみると
「マケドニアはいいところだ。行ってみるといい。
でも、仕事はないぞ」との答え。
ここに来る前、スロヴェニアとクロアチアを通ってきた話をすると
「スロヴェニアはいい国だ。人々はフレンドリー」
「でも、住んで仕事をするのは難しいし、給料も安い」

ということで、このオヤジはかなり前にオーストリアに流れてきて
しばらくはこの国に留まるようである。
話し込んでいると、雇い主と思しき人間がやってきて
オヤジを仕事にせきたてた。
「ヴィダシャン」「アレスグート」と、ボクたちは別れた。

ノヴォテルの部屋は快適だった。
広さは日本でいう16畳程度。
大きなベッドが二つあり、窓辺にソファーベッドとテーブルがある。
壁の長辺に沿って長い机があり、電話機とTVが置いてある。
窓の外には手入れの行き届いたノヴォテルの庭があり
庭の向こうはウィーンの森(Wiener Wald)だ。
ハンドルを真下に向け、窓を全開にした。
ハンドルの位置によって開きかたが変わる
ドイツやオーストリアに多い大きな窓だ。




上の写真は、残念ながら
ノヴォテルの窓ではなく
オーストリアのとある民宿の窓。
ハンドルの位置や窓の開きかたには
バリエーションがあり
最も複雑なタイプは
ハンドルの向きによって
蝶番の位置が3種類に切り替わり
下の絵のような開きかたをする。


将来、家を建てるようなことがあったら、
窓は絶対これにしたいと思っている。