70 アンドラでの買い物・午後の部

昼飯の場所には迷わなかった。
商店街で見つけた看板にしたがって角を曲がり
われわれが入った店の名は“ドン・カルロス”だ。
入った瞬間、アンドラで一番人気の高いレストランだと思った。
壁といわず天井といわず
いたるところにアンドラはもとよりフランス、スペインの
人気歌手、TVコメンテーター、作家
政治家などの写真が貼ってある。

どれもこの店に来たときに撮ったもので
サイン入りの写真も多い。
半数以上の写真にいっしょに映っているオヤジが
たぶん、ここのマスター“ドン・カルロス”なのだろう。

写真とともに、天井から吊り下げられた無数の獣の足!
どれも蹄が上で太股が下。
太股から滴る汁を受けるために
小さな皿がいっしょにぶら下がっている。

時々、長いナイフを振りかざして
吊り下げたままの足から、薄く肉を剥ぎ取っているオヤジが
店主のドン・カルロスに違いない。
愛想の良い小太りのおっさんだ。
剥ぎ取った肉片を見ると
あのプロシュート・コン・メローネのプロシュートだ!
やっと、吊り下げられた無数の足が
塩漬けにされた豚のものだとわかった。

われわれはグラスワインとサラダと
オムレツとラムの焼いたのを頼み
適当に皿に取り分けて食べた。
店内は広く、全部で50〜60人は入れるだろう。
ちょうど昼食時だったので、次から次へと客が入れ替わる。
ドン・カルロスの店は大繁盛だ。

値段も、物価の安さからすると割高なのかもしれないが
スペインやフランスで同じ料理を食べたら
ここの2倍以上はしただろうと思う。
満腹になったわれわれは
買い物をするため、また表通りに出た。

どこにどんな店があって
どれくらいの値段なのかがわかったので
午後はボクも買い物をすることにして、Wさんと別れた。
最初に買ったのはナイキのベイビー・ジョーダン。
サイズがわからないので、手で“これくらい”と大きさを示し
それに合うサイズのを出してもらった。
3800ペセタだから約3000円だ。

ショウウィンドウを覗いていると
腕時計やサングラス、ライターなんかにも
思わず買ってしまいそうになる値段がついているが
欲しいのがなかったのと、なくすとヤなので…
などの理由から止めにした。

ホテルの部屋に戻って絵葉書を書いたボクは
切手を買い、投函するために
午前中に行ったオフィス街にある郵便局に向かった。
郵便局はフランスとまったく同じ。
郵政をフランスに委託しているのだろう。

中に入って「パル アヴィオン スィルヴープレ」
…と言ってペセタ硬貨を出すと
「ナントカカントカ…」と、フランス語で怒られた。
「じゅぬこんぷらんぱふらんせーずやから
すぴーくいんぐりっしゅ?」と言うと
相手は「ノン」と言いつつ
フランスフランでないと受け取れないと説明してくれた。

街中の商店では
どこでもフランとペセタの両方が対等に使えたのに…。
“仕方がない、銀行で両替でもしてくるか”
…と、郵便局を出ようとしたボクのところへ
一人のおばちゃんが近づいてきた。
“何だろう?”と、おばちゃんの顔を見るボクに
彼女は片言の英語で
「あっちにスペインの郵便局がある」と教えてくれた。

“なるほど! そういうわけか!”
おばちゃんにお礼を言って
ボクは教えられたとおりに角を曲がり
スペインの郵便局に入って行った。

そこではもちろんペセタで切手が買え
スペイン郵政によって郵便物が送れるのだ。
“Par Avion”ではなく“Via Aerea”のステッカーを貼って
無事、アンドラから絵葉書を出すことができた。

ホテルの部屋に戻ると、Wさんもほぼ同時に帰ってきた。
ホテルで一休みしたわれわれは
坂を少し下ったところにある
われわれが泊まっているのよりちょっと高級なホテルの
レストランで夕食にした。
バイキングスタイルの、大食らいのボクにはうれしい夕食だった。