初夏のヨーロッパほどけしきが輝いて見えるところはない。とりわけアル 
 プスより北の地方では、戸外にあるすべてのものが、われこそ風景の主役と 
 ばかりに陽光を浴び、強烈な色の光線を反射させている。         
  アルプスから降りてくる冷たい風に清められた大気と、緯度が高さのぶん 
 だけ斜めに差し込む太陽光線のおかげで、空も森も街も畑はもちろん、道行 
 く人々や庭の草花さえも生気を帯び、初夏のひとときを謳歌する。     
  体感気温は高いのに、日陰に入ると思わず上着が欲しくなる中緯度ヨーロ 
 ッパの6月は、どこに行っても、透き通った空気とまぶしく輝くけしきが待 
 っている。                              
  とある地方の、とある街外れの、とある田舎のけしき、ふと通りかかった 
 旅人の視線の高さに見えるけしきが、これほどまでに人の心を惹き付けるの 
 は、そこにある大地とそれを取り巻く大気の状態が、人間という生物が身心 
 ともに健やかに生きるのに最も適しているからに違いない。        
  シュヴァルツヴァルトから平地に出、西に向かいはじめたドナウのまわり 
 には、そんな、何もせず、いつまでもただ、そこにいて眺めていたい気分に 
 させるけしきが満ちあふれている。                   
                                    
撮影地:Schweningen(ドイツ)
 


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