55 グローニンゲンの中華料理屋

連れて行かれた中華料理店は、見るからに高級な店だった。
たぶん、グローニンゲンで一番いい店なのだろう。
遮断機付きの駐車場があって
そこから店の入り口のドアのところまで
池に架かる橋を模した通路を通って行くようになっている。
ドアを開けると、店の中に橋の欄干があり
その先にレジとクロークがある。
“ま、ここならマズくはないだろう…”
そう思ったボクはちょっと安心した。

カメラマンの先生がたはみんな大食漢だ。
メニューを見て、次から次へと一品料理を注文する。
オランダGPに来た日本人プレスの
ほぼ全員が2個のテーブルに分かれていたから
両方合わせると、たぶん
店のメニューの全種類を頼んだんじゃないだろうか。
高級感のきわめつけは、最初に配られた大皿だ。
マーブル模様の、直径40cmはあろうかという温められた大皿は
裏返してみると“Villeroy & Boch”のネームが入っていた。

味は…、ボクがヨーロッパで食べた中華料理の中でベストだ。
ちんげん菜が大きくて固いとか、ソースが全般に甘目だとか
オランダならではのディテールの違いはあるが
これなら日本でやっても十分客が来るだろうと思わせる味だった。
洋食のと変わらないデザートもしっかり食べたわれわれは
それぞれのクルマに分乗して、それぞれのホテルへ
それぞれが飲酒運転で帰った。

グローニンゲンのホテルからのアクセスは困難を極めた。
モジュラージャックなどというしゃれたものはなく
出来損ないのプッシュホンは、ボタンの節度がなく
ダイアルするだけで大仕事。
おまけにアムステルダムへの回線が混んでいるのか
なかなかつながらない。

“どうせ市外通話だから、どこでもいっしょだ”
そう考えてロッテルダムやデン・ハーグなどに電話しまくって
やっとTYMPASのアクセスポイントにつながった。
PCを持って海外に行くようになって2シーズン目
ボクは、電話があればどこからでもアクセスしたくなる
“アクセス魔”になっていたようだ。

翌6月25日は24日と同じことの繰り返し。
ホテルで朝食を食べてサーキットに向かい
仕事が終わって同じ中華料理屋に直行し
飽食三昧をしてホテルに戻るというパターンだった。


TTウィーク中
アッセンはもちろん
隣町・グローニンゲンも
ヨーロッパ各地から
集まってきた観客で賑わう。
予選日などはサーキットに行かず
一日中カフェの椅子に座り
次々と集まってくる
観客のオートバイを
眺めている者もいる。


6月26日・土曜日。
年間15戦前後の世界GPのレースの中で
毎年オランダGPだけ、土曜日に決勝が行われる。
日曜日にレースなどするのはけしからんという
宗教上の理由だそうだ。

この日は、道が渋滞していると困るので
前日までより1時間早くホテルを出ることにした。
「7時出発だから、朝メシはなしね」と前夜に打ち合わせたのだが
早起きして食堂に行ってみると、朝食の用意はできていた。
“Wさんやiさんが起きて来る前に食べてしまおう”
そう考えて急いで食べ始めると
ほぼ同時にWさんとiさんがやってきた。
結局3人ともしっかり朝食を食べてからの出発となった。

アッセンへの道は、昨日までと同じように空いていた。
が、アウトバーンを降りてからは
オートバイやクルマで渋滞している。
普段は対面通行の道路を一方通行にしたり
信号のタイミングを調整したりしているが
それでも、昨日までは5分しかかからなかったところが
30分近くかかった。

レースの結果は
昼前に行われる250ccクラスでは
イタリア人のカピロッシが独走優勝。
日本の期待の星・原田哲也は出遅れ
アメリカ人のコシンスキーとの接戦に勝って2位に入賞。
開幕戦・オーストラリアGP以来のランキングトップの座を守った。
続く500ccクラスではアメリカ人のシュワンツが優勝。
125ccではドイツ人ラウディスが独走優勝。
日本人の坂田和人は2位に入り
彼もまたランキングトップを守ったが
ここまで7戦のうち
ボクが取材した5戦全部でラウディスが優勝している。
表彰台で流れるドイツ国歌
ハイドンの弦楽四重奏曲を元にした「世界に冠たるドイツ」も
すっかり耳になじんでしまった。