57 かぶと虫を助け、ドイツへ入る

クルマに荷物を運んでいると
VWビートルが目にとまった。
ドイツの国民車といわれ
世界の各地でも走りまわっていたクルマだ。
製造中止から相当な年月が経つから
最近、ヨーロッパではあまり見かけない。
中を覗くと、ひとりのおばちゃんがシートを外し
何やらごそごそやっている。
バッテリーが上がってエンジンがかからないらしい。

ナンバーを見ると、ドイツからやってきたようだ。
とりあえず見てあげることにした。
バッテリーは少々くたびれていたが
充電すれば走れるに違いない。
こういったクルマに乗ってる人の常で
おばちゃんもブースターケーブルを持っていたので
それでわれわれのフォード・モンデオと直結した。

が、おばちゃんがいくらセルをまわしてもエンジンがかからない。
モンデオの空吹かしをWさんに頼んで
ボクがかぶと虫の始動をやってみた。
“ガチッ、グルッグルッ
キュルキュル、ガチガチッ”と何度か失敗して
最後に何とかエンジンは始動した。
「早く乗って! 出発したらなるべく停まらず
信号待ちではアクセルをあおって」
ボクがそう言うと、おばちゃんはうれしそうに何度もうなずいて
一足先に駐車場を出た。

われわれはしばらくおばちゃんの後について走り
元気良く走っているのを確かめてから前に出た。
追い越してから右手を上げると
ミラーの中でおばちゃんが笑っていた。
クルマとかオートバイのメカがわかるってのは
漢字でヨーロッパ人の名前が書けたり
折り紙で鶴が作れるのと同じように(ボクには作れません。(^_^;)
楽しいコミュニケーションのきっかけをつくってくれるものだ。

スキポールからアウトバーンに乗って
アムステルダムの環状線に入り
ユトレヒトに向かう[A2]に乗り換えようとしたら
前方がひどく渋滞していた。
オランダやドイツにも渋滞はある。
[A2]の本線上に停まったクルマは、見える限り延々と続いている。
[A2]への分岐ぎりぎりで進路を変えたボクは[A1]に乗り換え
ヒルバーサムを経てユトレヒトに向かうことにした。

渋滞に手間どるよりはこちらのほうが早いと思ったからだ。
ヒルバーサムは、アムステルダム近郊としては標高が高く
金持ちの邸宅や文教施設、放送局などが集中する町だ。
ディック・ブルーナのスタジオもこの町にある。
モロッコやメキシコとは逆に
オランダでは、高級住宅街は必ず標高の高いところにあるらしい。

[A1]も、ヒルバーサムから先の[A27]も空いていた。
快調に走ってユトレヒトに出
そこから[A12]を走って行けばドイツは近い。
ユトレヒトから2個目の出口
[Maarsbergen]で降りれば、すぐのところに
昔借りていたワークショップがある。
しかし、今回は時間がないので
寄らないことにして、先を急いだ。


オランダの内陸部を
東西に走るアウトバーンは
[A1]、[A12]、[A15]ほか5本。
その中で、ドイツへの
主要交通路となっているのが[A12]。
アムステルダムから[A12]に入るには
[A2]でユトレヒトまで南下し
乗り換えるのが普通のコース。
アムステルダム〜ドイツ国境は
約140kmしかない。


マールズベルゲンから先は通い慣れた道だ。
オランダ=低地は合っていたが
低地=畑や牧草地と考えていたボクは
初めてこの区間を通ったとき、びっくりしたものだ。
アウトバーンのまわりに松林が広がり
その中を渓流が流れていたりする区間があるからだ。

そうした区間を過ぎると
アウトバーンは再び牧草地の中を一直線に進む。
トンネルや切り通しはもちろん、高架や盛り土さえないから
牧草地と同じ高さを走り
農家の庭と同一平面上にサービスエリアなどがある。
レース期間中とはうって変わって好天で
見渡す限り一面に牧草地の緑が輝いている。
途中で渡るアイセル川の橋のたもとにある古びた煉瓦工場の煙突も
そのちょっと先にある[IKEA]の青と黄色の看板も
9年前と少しも変わっていないのを見て安心した。

平地を通りすぎ、再びゆるやかに起伏する地形が現れると
そこがドイツへの入り口だ。
オランダの[A12]は、ドイツに入ると[A3]と番号を変える。
国ごとに番号が変わったのではややこしいので
EC内の主要道路は一連の番号を持っている。
アムステルダムからユトレヒト、フランクフルトを経て
バーゼルからスイスに入り、最後にローマに達するのがE35。
路肩の標識や道路地図などには[A3-E35]というふうに表示される。

ドイツに入ってすぐのサービスエリアで昼食にした。
ソーセージとサワークラウドと
カイザーゼンメルとガス入り天然炭酸水!
それに、日本だったら特大クラスのケーキとコーヒー!
こんな大好きなものの取り合わせメニューだったら
1ヶ月、いや、1年続いたって大丈夫だ。
ま、マクドナルドが3食続いても喜んでるヤツの話だから
味の保証はどこにもないが…。(^_^;