XJ900の爽快チューン
2012年2月4日 - 車載用パンタグラフジャッキでインナーチューブの曲がりを修正   
     
 酸素プラズマ(酸素雰囲気中でプラズマを照射)によるリアショックロッドの DLC膜除去が終わるまでの間に、フロントフォークを何とかしておこうと、とりあえずバラした。
 もともとこのフロントフォークは動きが良く、とくにアッシュのフォ
ークオイルを使いはじめてからは、あの和歌山利宏さんをはじめ多くの方に(セッティングは別として)作動性にお誉めをいただいていた。
 そして、2009年春に施した“フロントフォークの隅を突く”精密組み
によって、さらに摺動抵抗が減り、筒穴式ダンパーを持つテレスコピックフォークとしては作動性の限界を極めたのではないかと思っていた。
 だが、それは、2009年夏までの、わずか3カ月あまりのこと。2009年秋ごろには、以前から兆候のあった右のフォークオイルが左よりも汚れやすい症状がヒドくなるとともに、左側のフォークオイルも以前と比べて汚れやすくなっていた。
 フォークオイルが黒く汚れるのは摩耗粉のしわざだ。インナーチューブ先端のスライドメタルとアウターチューブ内周/アウターチューブ上端のスライドメタルとインナーチュ
ーブ外周/フォークシリンダー(ダンパーロッド)上部のピストンリングとインナーチューブ内周/フォークスプリング外周とインナーチューブ内周/インナーチューブ先端部内周とオイルロックピース(テーパースピンドル)外周、これら5箇所のいずれか、またはいくつかの箇所のアタリがきつすぎると摩耗が進み、摩耗粉がフォークオイルを汚す。
 1年半にわたる大改造にとりかか

った2009年の秋に点検したところ、インナーチューブ先端のスライドメタルが、右側のみ、即交換が必要なほど摩耗していたので、大改造の期間中に上下のスライドメタル+ピストンリングの3点の消耗パーツを注文した。ところが、復活した2011年の春以降も、以前ほどの満足感は得られない状態が続いていた。
 フォークオイルの汚れも、左右とも相変わらずヒドく、摩耗粉が非磁性であるとわかってからは、インナ
ーチューブ先端のスライドメタルがアウターチューブ内周を削っているような気がして、リアショックが完成したらすぐにフロントのオーバーホールをするつもりではいた。
 で、リアショックの完成が遅れているのと引き換えに、フロントフォ
ークのオーバーホール着手が早まったというわけだ。バラしてみたところ、新品にしたばかりのインナーチ
ューブ先端のスライドメタルのアタリが良好とはいえず、先端側のエッジ付近を中心に、点々とテフロン層が剥離した痕跡が見つかった。
 フォークオイルの汚れ具合は左右とも同じくらいだが、スライドメタルの程度は、やはり右側のほうが悪い。ひょっとすると、このスライドメタルが接するアウターチューブの摩耗も進行しているかもしれない。
 そう考えて、摺動部分に軽くオイルを塗っただけの、ダンパーとしては機能しない状態で左右のフォークを仮組み(仮組みとはいえ、組み方は通常どおり)し、アウターチューブの下端部を前後左右に揺すってみた。結果は悲惨なものだった。
 左側は“オイルが入っていないフ

ロントフォークなんて、ガタガタで当たり前”と、よく言われる程度の通常のガタガタだったのに対し、右側は、全伸時と全屈時には左側と変わらぬ程度のガタガタながら、中間付近ではガタガタどころかゴソゴソで、アウターチューブ下端部の振れ幅は左側の2〜3倍ありそうだった。しかもそれは前後方向のみ。左右方向への振れは左側と変わらない。
 つまり、右側のアウターチューブ中穴が、横から見て樽型に摩耗しているというわけだ。そうとわかってしまえば、いくら私でも(笑)、もうこのアウターチューブを使う気にはならない。祈るような気持ちで右側アウターチューブの中古スペアを出してきて、同じように仮組みし、下端部の振れをチェックした。
 幸いなことに、中古スペアのほうは、全伸〜全屈のどの位置でも、前後/左右とも、左側と同程度の振れ具合だった。これを使うことで、とりあえず、樽型摩耗による“ここから先の問題”はクリアできそうだ。
“ここから先の問題”というのは、アウターチューブの樽型摩耗を原因とする、フロントフォークの剛性低下、摺動抵抗の増加、さらなる摩耗の加速度的進行などである。しかも片側だけの不具合だから、組み方や乗り方でごまかすことはできない。
 で、アウターチューブの交換により“ここから先の問題”は回避(先送りにすぎないかも)できるとしても、そもそも右側だけが樽型に摩耗した“ここより前の問題”の原因を突き止め、対策しなければ、近い将来同じことが起きる可能性が高い。
 そこで、3年ぶりにインナーチュ
ガレージの柱をガイドに、梁をストッパーにして、廃品のインナーチューブをパンタグラフジャッキで押して修正対象に力を加える。
対向車と接触したとき(奇跡的に転倒は免れた)に曲がった個体を含む4本を比較したが、結局今の2本を継続使用した。
左右それぞれの端部に90度ごとにマークして番号をふり、片側ずつ90度ごとに回し、16通りの組み合わせで隙間を測定。
最も隙間が大きかった箇所の裏面にマークをし、そこに使い古しのブレーキパッドを当てて“押し用”インナーチューブをセット。
梁に固定した垂木クランプに載せた木片で修正対象を支持。今回のはRが大きかったので、広めにし、両端部を支持した。
ーブをアンダーブラケットから外して、7年ぶりに曲がりを点検することにした。めったなことでインナーチューブを外さないのは、最も動きのよい向きに取りつけたあと、それをキープしたいからであり、曲がりの点検をしないのは、事故や転倒をせず普通に使っている限り、曲がることはないと思っているからだ。
 ところが、今回の測定により、左側に0.03mm、右側に0.09mmの曲がりが見つかった。この数値は、上端と下端を結ぶ直線を基準に、最も外れた箇所がどれくらい外れているかを表したもの。サービスマニュアル記載の使用限度は0.2mmである。
 測定方法は簡単だ。最初に、左右のインナーチューブそれぞれの下端部(スライドメタルの入る溝)に、90度ごとにマークをし、1〜4の番号をつける。そして、2本のインナーチューブを平行に置いてぴったりく
っつけ、左を1にしたまま右を1から4まで回し、両端がくっつき、中央部の隙間が最も大きくなる位置を探し、そのときの隙間の大きさをシ
ックネスゲージで測定する。
 同じく、左の2に対して右の1から4、左の3に対して右の1から4
…と、合計16通りの測定をし、それぞれの隙間の大きさをメモする。
 曲がりの箇所が複数で、ばらばらの向きに曲がっていたりする場合はお手上げだが、そうでなければ、例えば左が4で右が3のときに最も隙間が大きかったとすると、左が1か3で右が3のときの隙間の大きさが右の曲がり具合、左が4で右が2か4のときの隙間の大きさが左の曲がり具合…というふうに推定できる。
 最初は90度ごとに4箇所だったの

を、この推定のあと、さらに小刻みに回しながら測定すれば、±15度程度まで追い込むことができる。
 で、どこを中心に、どちら向きにどれくらい曲がっているかがわかれば、あとは、その反対側を押して、逆に曲げればよいだけだ…と、言うだけならたやすいことだ(笑)。
 インナーチューブの修正には油圧プレス機を使うのが一般的…というか、マトモな人は、それ以外の方法を考えたりしないはず(笑)。だが、マトモじゃない私は、この場にある物で何とかならないかと考えた。
 最初は、両端に木片を噛ませたインナーチューブの中央部を踏んでみたり、それではダメだとわかると、両手をガレージの天井の梁に当てて(懸垂とは逆に)体重+腕の力を加えてみたりした。瞬間的に2〜3mm曲がっている感触はあるが、力を抜くとすぐに戻ってしまう。これにより剛性は大したことないが、強度はけ
っこうあることがわかった(笑)。
 次に試したのが、乗用車用パンタグラフジャッキを使った簡易プレス機の設営と、それによるプレスだ。
コンプライアンスさん(またの名をマイスターかわぐち)が、以前、何かを曲げるか圧入するとき(もう、話の中味は忘れてしまった)2本の門柱の間にパンタグラフジャッキをセットしてプレスした…と言っていたのを思い出し、それを応用した。
 こんなことをするのは、もちろん初めてなので、うまくいかなければ黙っとこうと思っていたのに、うまくいったから公開である(笑)。
 実は私、曲がったインナーチューブの修正にはかなり場数を踏んでいて、一時は名人呼ばわりされたこと

もある。プライベートのレースメカ時代に、よくコケてくれた周りのライダーたちのおかげだ(笑)。
 インナーチューブの曲がり修正における重要ポイントは…
 1)曲がり箇所と向きの特定を慎重かつ子細にする。
 2)複雑な曲がりの場合は定盤の上で観察と測定をし、どういうふうに曲がっているか、頭の中で、または紙の上に誇張した絵を描く。
 3)ここを押せばまっすぐになるというポイントを見極め、Rの大きさに応じたスパンで支持し、軟らかめのブレーキパッドを当てて、反対側に曲がるまでプレスする。
 4)力加減と、弾性による戻り具合を比べながら、戻ったときの曲がりが徐々に少なく、最後に真っ直ぐになるようにプレスを繰り返す。慣れれば当然、試行回数は減る。
 5)真っ直ぐになっても、すぐに組み立てず、1時間ほど放置してから再測定し、必要に応じ再修正する。
…といったあたりである。
 今回のパンタグラフジャッキによるプレスでは、途中でガレージ全体がミシミシと音をたてたり、単管同士を十字に固定する直交クランプが滑ったりした(増し締めして続行)から、最大1/2〜1トン程度の力がかかっていたのではないかと思う。
 初めての方法だから、さすがに慎重にしたおかげで、繰り返し回数は1本あたり5回では済まず、測定や設営を含めると1日では終わらなか
ったが、最後には、2本を平行に置いた隙間の測定で、どちらをどう回した位置でも0.02mmのゲージが通らないところまで(0.01mmのゲージは千切れて使用不能)修正できた。


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