XJ900の爽快チューン
2012年10月20日 - 2012年第4回ダンロップツーリングステーション@瀬の本高原(往路)
     
 日付は20日になっているが、出発したのは10月19日の夕刻。バイカーズステーション12月号の原稿執筆が長引いたおかげで予定が押せ押せになり、そのあとに最低限の整備時間を確保すると全行程下道で行くのはとても無理。しかし高速道路は走りたくないので、19日(金曜)の夜に神戸(六甲アイランド)を出、20日(土曜日)の朝に九州(新門司港)に着くフェリーに乗ることにした。
 京阪神と九州を結ぶフェリーは、北九州の他、別府、大分、志布志
宮崎などに向けて運行している。その中で阪九フェリーの神戸〜北九州便を選んだのは、 750cc以上のバイクの航送料金と2等運賃を合わせて10,200円という安さ(他は13,800〜
17,480円。いずれも割り引きフル適用)と、九州行きのフェリーの中で最も出航時刻が遅い(金土日は20時ちょうどに出航)からである。
 出航1時間前の19時にフェリータ
ーミナル
に着くべく、ウチを出たのは18時ごろ。もうすでにかなり冷え込んでおり、道端温度計の表示は、

どこも20度以下である。パイロットジェットを15番から17.5番にした効果の確認には好都合だ。走りだしてすぐに普通のスロットルワークができたから、まずはOKである。
 奈良市内を通過したあとは、時間短縮とメインジェットを絞った効果の確認のため、めったに使わない第二阪奈〜阪神高速に乗り、奈良の宝来から六甲アイランド北まで走る。
 常用域の上限、 6000rpmあたりですでに、いつもより軽やかに回っているのを体感したあと、ゆっくりと回転を上げていくと、ふだんはめったに使わない 7000rpmを越えてもなお、エンジンが回りたがっているのを感じる。以前は、このあたりから上の回転域では、明らかに回りたがらなかったから、20度以下の気温にもかかわらずメインジェットを絞ったのは正解だったようだ。
 しばらく 6000〜7000rpmあたりで巡航の後、 いったん3000rpmあたりまで落とし、そこから全開加速をしたり、 ゆっくりと7000rpmまで加速し、そこで全開にするテストをして

いると、クラッチが滑りだした。
 このマシンのクラッチ滑りは、以前に何度も経験しており、そのつどプレート類やスプリングの交換によ
って復旧していた。だが、考えてみると、簡単に直るということは、常に容量ギリギリのところで使っていたということで、直ったと思っていても、実際にはわずかに容量が増えただけで、今回メインジェットを絞
ってトルクが増したことで、簡単に閾値を超えてしまったのだろう。
 気持ちよく引っ張っていけるようになった6000rpm以上を、 この先の道中で使えないのはくやしいが、それ以下の常用回転域では滑りの兆候はないので、悩まず、いつものペースで行軍を続けることにした。
 フェリーターミナルに着くと、すでに乗船手続きが始まっており、慌てて乗船票に記入し、受け付けの列に並ぶ。インターネット予約の受け付け番号を忘れ「番号は忘れましたがネットで予約した吉村です」と、いつもどおりのやり方で(笑)、窓口のお姉さんに確認してもらった。
六甲アイランドの阪九フェリーターミナル、二輪車専用待機場所にて。となりのドカと向こうのR1は長崎ナンバーだった。貸し切り状態だった阪九フェリー“すおう”の船内4階にある展望浴場。朝のほうが、空いていて景色も楽しめ、言うことなし。
 乗船票に車名を記入し忘れていたらしく「車名は何ですか?」と聞かれて一瞬たじろぐ(笑)。車検証にはヤマハとしか書いてないけど、ここではどう答えるべきか…。 4BBは車名じゃないし、 XJ900スターリングなんて言ったら笑われるかも…と考えていると、 お姉さんが「CB750とか Z1000とかいった名前ですよ〜」と急かすので 「XJ900」と答えて無事に切符をもらうことができた。
 バイクの積み込みは、係員の誘導に従って、並んでいるトラックの脇をすり抜け、2層に分かれた車両甲板の下層へ。前後輪に輪留めをし、シートに毛布を乗せ、その上からタイダウンベルトをかけて、足元にあるアンカーに固定する。この方法は鳥羽〜伊良湖フェリーと同じだ。
 甲板にはすでに7台のバイクがいた。ナンバーを見ると、半数がこれから九州に向かい、半数は九州に帰るお客さんのようである。
 荷物をすべて降ろし、ハンドルロ
ックをかけた後、案内の表示に従って客室へ。予約していたのは、最も

安い2等ではなく、2等指定A(1人用個室)である。ゆっくり寝たか
ったのと、まわりの人に迷惑をかけたくなかったのと、パンいちで寝られる気楽さが選択の理由だ(笑)。
 部屋に荷物を置き、まずは夕食。船内のレストランは、さすが12時間半の船旅を提供するナイトフェリーである。いわゆるカフェテリア(またの名を運ちゃん食堂)方式で、好みの皿をトレイに乗せていき、最後に汁物とご飯を頼み、端のレジで精算する。魚の煮物、焼き物、揚げ物の他、大皿に盛った焼肉定食やチキンカツ定食、丼物やカレーなどもあり、迷いだすときりがない。
 迷ったあげく、トレイに載せたのは、鯖の塩焼き、揚げ出汁茄子、シンプルな野菜サラダゆで卵入り、それと普通盛りの白飯。 250円でおかわり自由のコーヒー込みで1300円だから、高くはない。味は良し!
 窓に面したカウンター席に座っているのに、陸の明かりが思ったより遠く、海は凪いだように穏やかなのだろう、船は微動だにせず、進んで

いる実感がまったくない。食べ終わ
ってデッキに出てみると、間もなく明石海峡大橋をくぐろうというところだった。なぜかちっとも寒くないので、その場でライトアップされた橋を見送り、船内に戻った。
 船は相変わらず、平穏な瀬戸内海を西に向かって航行していた。
          ●
 10月20日土曜日。5時ごろに目が覚めた。昨夜は早くから快眠できたおかげで、心身とも快調そのもの。船内を一回りし、売店、大浴場、レストランの開店時刻を調べる。いずれも7時にならないと開かないとわかり、早く起きすぎたのを後悔するが、二度寝するのももったいない。
 部屋に戻って、ベッドの脇のデスクに向かってPCを開く。上陸後の行程メモを読み返して“25〜10〜別府
〜やまなみハイウェイ〜瀬の本高原
…”という文字列を頭に叩き込んだり、一昨日の深夜に済ませたバイカ
ーズステーションの校正を再チェックしたり、同誌とロードライダー誌の最新号を読んだりしていると、廊
フェリーを降りると、いきなり九州の道だった(笑)。まずは、頭に叩き込んだ25の数字を頼りに、小倉方面をめざして走りだす。
道の駅“豊前おこしかけ”にて、ロールケーキとコーヒーでリフレッシュ。果物や海産物が豊富で、買物客で賑わっていた。
別府市内で[湯布院→]の標識を見つけて曲がり、その先のコンビニで休憩。九州では他でも500番台の国道を見かけた。
下を歩く人の足音が増えてきた。そろそろ大浴場が開くらしい。
 6時50分になって、 大浴場を覗きに行くと、けっこうな混雑。これは先にメシを済ませてからのほうがいいな…と、下のフロアに降り、開店したばかりの売店でサンドイッチの他に菓子パン3つとコーヒーを買って、だれもいない喫煙室のソファに座り、海を見ながら食べた。菓子パンは、1個か2個、道中のおやつにするつもりだったのに、食べだすと止まらず、全部たいらげてしまった。
 7時半ごろに、再び大浴場を覗くと、上がってきたばかりの人が2〜3人いるだけで、浴室内は無人。こり
ゃええわい、貸し切りじゃ…と、海の見える展望大浴場を独り占めし、ゆったりと朝風呂を楽しんだ。
 部屋に戻ると、まもなく到着のアナウンスがあり、慌てて荷物をパックして車両甲板に降りる。どうやら船は、それらしきショックもないまま、すでに接岸しているようだ。まわりのバイクが出口向かって走り去
っていくのを見て、自分も同じよう

に、大型トラックの列の間をすり抜け、フェリー職員の方々に頭を下げながら短いブリッジを渡ると、あっけなく九州の地に上陸した。
 いざ上陸してみると、ちょっと止まってゆっくりするところも、道路情報を得るところも何もなく、いきなり道路である(笑)。しかたない、行くか…と決めて、フェリーから降りてきたクルマの流れについて表通りへ。最初に見つけた標識の25の文字を頼りに、まずは小倉を目指す。
 空は雲ひとつない快晴で、まだ9時前だというのに異様に暑い。止ま
って一呼吸おいて、フェリーモードからツーリングモードに頭を切り替えてから走りたいのに、止まると暑くてたまらず、ずるずると走り続けていると、国道10号に出た。
 この国道は、走っていてちっとも楽しくない。都市部の景観は、この国のどこにでもある殺風景かつ没個性的なものだし、田園部も何だか雑然としていて、つまらなさではウチの近所の24号といい勝負だ。
 おまけに、九州流というか何とい

うか、方向指示器を出さずに右左折や進路変更をするクルマが多く、蹴りを入れたくなる。まあ、今回は実際に蹴ったクルマはなかったが、ホ
ーンを慣らしてから中指を突き立てた相手は2台や3台ではない。
 一方のバイクは、この区間では少ししか見かけなかったとはいえ、どうやら“すり抜け”をしないのが九州流のようだ。郷に入れば郷に従え
…と、しばらく九州流でやってみたが、結局イラチの私は我慢できず、地元を走っているときよりは少し控えめ程度にして先を急ぐ(笑)。
 宇佐八幡宮で有名な(鉄ちゃんには宇佐参宮鉄道が懐かしい)宇佐をすぎると、国東半島の付け根を横断する。JR日豊本線と併走しながら、今日ここまでで初めての山道を走ってみて、そういえばタイヤを新品にしてきたのだった…と思い出した。
 昨日装着したのは、同じK300GPでも、前回のツーリングステーション(猪苗代)までとはフロントのサイズが異なっている。前回は1サイズ太い 110/90-18だったのに対し、今
湯布院の町に向かって駆け下りるやまなみハイウェイ。別府からの登りとは一変し、雄大な景色を見ながらの快走区間だ。
回は100/90-18。 言うまでもなく今回のほうが軽快感は高い。
 でも、スポーティーなのは 110のほうかもしれない。 100は、寝かし始めの反応が敏感で、小さな入力に対しても繊細に応答する。それゆえそこを確かめつつ“ちまちま”したコーナリングになりがちだ。対する110は、100と比べると鈍感で、明確な応答を得るためには積極的な入力が必要であり、アグレッシブなライディングが合っているようだ。
 今日みたいな、攻めず・軽やかに駆け抜けるツーリングには、 100のほうが好ましい。そんなことを考えながら走っていると、やがて目の前に海が見えた。なおも進むと、国道10号は、延々と椰子の並木が続く海沿いの道に変わり、間もなく別府市内に入った。どこかで停まって道を確かめようと思っていると、唐突に[湯布院→]の標識が見えた。
 ここが“やまなみハイウェイ”の起点なのかどうかわからないまま、とりあえず標識に従って右折すると国道500号だった。 海を背に、緩や

かに傾斜した市街地を貫いて、山に入っていく街道らしい。その道が、ぐっと勾配を強め、最初のカーブにさしかかる手前のコンビニで休憩。地元の人に道を尋ね、 国道500号をこのまま行くと、県道11号との分岐があり、そこからの11が“やまなみハイウェイ”だと教えてもらった。
 道がわかればこっちのもの(笑)、500で 市街地を見下ろす高台に登ったところから、無事に11へ。あとはしばらく、勾配はさほど急じゃないがカーブはキツい山道だ。しかし、城島高原パークというところをすぎると道も景色も一変し、雄大な景色の中を高速コーナーばかりで駆け下りる歓喜のシチュエーション!
 坂を下りきったところが湯布院の町だった。このあたりで昼を食べておかないと、先には何もないような気がしたので、 11から外れ、216で街中へ。 ただ、この216も、街を貫くわけではなく、市街地の東〜北側をぐるっと迂回しており、気がついたときは大分道湯布院IC脇にある道の駅まで来てしまっていた。

 これといった特徴のない、どこにでもある道の駅。ここで昼メシにはしたくないので、インフォコーナーに置いてあるチラシを見る。駅周辺に飲食店が何軒かあるので、 216を引き返し[湯布院駅→]の標識のところで右折。あとは真っ直ぐ行けば駅前なのに、なぜかもう一度右折。道端にイタメシ屋の看板が見えた。
 看板に従って進むと久大本線の踏切があり、それを渡ると、100mほど先に三色旗を掲げた建物が見えた。入ろうと決めていたわけではないのに、建物とそれを取り巻く景色を眺めていると、気持ちは入るほうに傾いた。ちょうど、食事を終えて駅に向かうのだろう、7〜8人のオバサン(つまり自分と同世代)のグループが線路沿いの道を歩いてきた。なんだかあのときのような感じだな…と思いつつ、日本語は通じそうなので「食事されてきたのですか? 美味しかったですか?」と聞いてみた。
 不意にバイク乗りのオサーンに話しかけられたにもかかわらず、酒でも入っていたのか、彼女らは堰を切
トスカーナの田舎そのまま…といった雰囲気の“南の風”の裏庭。空調を入れず、店の窓が開けっ放しだったのも好印象。
開けっ放しのドアから入ってすぐの展示スペースには、球のアンプやチェンバロの原型(複製)など、興味深い物がいっぱい。
ったように、何を食べてどうだったかという単純な話に尾ひれ背びれ胸びれ腹びれ尻びれをつけてまくしたててくれ、聞いてるこっちが混乱気味に…(笑)。結局、知りたいことはよくわからなかったのだが、このゴキゲンっぷりからして、いい店に違いないと判断し、なおもその場でおしゃべりに興じる彼女らにお礼を言い、店に向かってバイクを進めた。
 正面に乗りつけ、どこに止めるか一瞬迷う。そして、ここなら出入りするクルマのじゃまにならないだろうと、勝手に決めて裏庭にバイクを停め、開けっ放しの玄関から店内へ
…。期待を裏切らない雰囲気だ。
 売店&展示スペースを通り抜け、奥のダイニングに入ると、そこはまるで、トスカーナの田舎のトラットリアである。メニューには“お昼のセット”と“お昼のコース”があるらしい。残念ながら、コースのほうは“お二人様用”なのでメインセットを注文。メインディッシュは、黒板に並んだ中から“豚肉のソテー・トマトソース”を選んだ。

 なぜそれを選んだのか…な〜んて話をしだすとキリがないので(笑)、大幅にカット。ともかく、ここ“南の風”は、とても気に入った。味よし雰囲気よし、そのうえ、都会の店には真似のできない“空気よし環境よし”が加わって、偶然この店を発見した自分の運の良さに感謝した。次は近所の宿に泊まって、ディナー
の時間に来たいものである。
 さて、再びバイクに跨がり、湯布院の町外れまで行ったあとは“やまなみハイウェイ”を一路、瀬の本高原めざして快走…のはずが、ちっとも快走できない。30年以上前に、ここを走って別府から熊本まで行ったときの、かすかな記憶と比べても、道は狭く、見通しも悪い。
 おまけに、九重町に入ったあたりからは、至るところに路駐のクルマがある。その数は進むにつれて増えていき、やがて、見わたすかぎり隙間なく駐車したクルマの列が続くという状況に…。快走どころか、速度を落として慎重に走っても安全とは言えない。九住連山への登り口だか

らか何だかわからないが、まあ、こうして景色のいいところにクルマで集まってくるのはモータリゼーションの健全な姿ではある。それが許される環境がうらやましくもあった。
 九住高原ロードパークという名の有料道路の入り口をすぎると、路駐車列もなくなり、道幅は広く、カーブは緩く、見通しはよくなる。交通量も減り“おお、これこれ!”と、昔の記憶に近い“やまなみハイウェイ”を快走していると、やがて前方に平地の景色が見え、道はそこに向かって下りはじめた。知らぬ間に、明日の会場(瀬の本高原)を通りすぎてしまったようである(笑)。
 道端の適当なパーキングに入り、そこにいたツーリング中のグループに聞いてみると「だいぶ来すぎてますよ」とのこと。それを聞いた私は
“そうか、あの道をもう一度走れるのか…”と、むしろ嬉しい気分で今来た道を引き返し、今度は無事に、瀬の本高原にある明日の会場“三愛レストハウス”の駐車場に入り、スタッフの出迎えを受けたのだった。


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