XJ900の爽快チューン
2009年10月7日 - 安全確実で、結局速いかもしれないピストンの装着方法   
     
■この内容は、 便宜上10月7日にしているだけで、同日のダイアリーというわけではない。 10月6日に行ったエンジンの組み立て時に、苦手のピストンの取りつけを、どのような方法で行ったかを紹介するものだ。
 今回は、急いで組み立てたために写真を撮っている時間がなく、ここに並んでいる写真は、2007〜08年にかけてのエンジンフルオーバーホール時のものである。そのとき初めてこの方法を編み出し、ジグを用意したりシミュレーションをしたりしてから実践し、もくろみは成功した。
 エンジンの組み立ての中で(…というよりオートバイの整備の中で)最も嫌いな作業のひとつである並列4気筒エンジンのピストンの取りつけを、いかに失敗せずにできるかを目標に、少々時間はかかっても安全で確実な方法を考えた結果である。
 こんなことを考えたのは、ピストンとピストンリングが新品で、それに合わせてシリンダーをボーリング
&ホーニングし、さらにピストン/ピストンリング/シリンダー内壁などに二硫化モリブデンショットを施すなどの細かな手を加えたからだ。そこまでやっておいて、ピストン装着時にスリーブの角でリングの上面に傷をつけたり、リングに曲がりグセをつけてしまったり、リング溝に傷や変形を与えたくない…というのがそもそもの動機だった。
 で、この方法についてはバイカーズステーション誌 2008年8月号の連載記事中で紹介しているとはいえ、当時はこのダイアリーそのものが存在せず、これまでウェブ上では見られなかったので、今回、同じ方法で装着したのを機会に、前回の写真を使ってまとめておこうと考えた。
■この方法が使えるかどうかは、シリンダー内に挿入したピストンを下げていったとき、スリーブの下端からピストンピン穴が覗いたとき(ピストンピンを通すのに必要なギリギリの位置まで下がったとき)に、リングがまだスリーブ内に留まっているかどうかで決まる。
 ピストンピンは通せるがリングがはみ出してしまったのでは、この方法を採用する意味がない。で、まずは、シリンダー単体でこれをチェックし、リングがはみ出さない状態でピストンピンを通せることを確認した。このシリンダーとピストンの組み合わせでは、それができる。とはいえ、ギリギリであり、実際の作業時には必要以上にピストンを下げてしまってリングがはみ出さないように、細心の注意が必要である。
■続いて、#1&#4と#2&#3のコンロ
ッド小端位置を決める。クランクが回らないように固定したまま4個のピストンをコンロッドに装着できる(ピストンピンを通せる)のがこの方法のもうひとつの狙いだから、クランクを固定する位置(コンロッド小端の高さ)の決定は重要だ。実際には、#1&#4の小端にピストンピンを通そうとしたときに、ピストンピンがクランクケース上縁(シリンダ
ーベース面)に干渉しない範囲で最も低い位置が良い。#1&#4の小端高さと#2&#3の小端高さにできるだけ差をつけておいたほうが、あとの作業が楽になる。#2&#3のピストンを装着(ピストンピンを通してコンロ
ッドに結合)した後、#1&#4の作業にかかる前に少しでもシリンダーを下げてやれば、#2&#3のリングがはみ出す危険性を低くできるからだ。クランクの固定には、(3)の写真に見えるように、クランク軸端にピックアップローターを仮づけし、その穴と近くのボルトをワイヤーでロックするという方法を採った。
■さらに、#1&#4のピストンピンがギリギリ通る高さにシリンダーを固定できる寸法の木製ブロック(大きいほう)と、それと重ねて#2&#3のピストンピンがギリギリ通る高さにシリンダーを固定できる木製のブロ
ック(小さいほう)を、それぞれ4個ずつ製作。最初は大小のブロックを重ねたゲタを噛ませた状態で#2&
#3のピストンピンを通し、続いて小さいほうのブロックを外した高さまでシリンダーを下げた後、#1&#4のピストンピンを通すわけである。ここまで用意をしておけば、あとは簡単。この木製ブロックを残しておけば、次に同じ作業をするときはとても簡単に、短時間でできるはずだ。
(1)ピストンリングをセットしたピストンを、あらかじめシリンダー内に挿入しておく。ピストンリングやリング溝周囲に傷をつけないための方法なのだから、挿入はシリンダーの上側から行う。こうすることで少しでもピストンの傾きが小さい状態でリングを嵌め込むことができる。大きいほうの木製ブロックをスリーブ側面に貼り付けておくと楽。
(2)クランクを固定した後、#2&#3のコンロッドに針金をからげて軽く固定。 これをしておかないと、(4)のようにピストンを下ろしたときにコンロッドの位置を合わせるのが難しく、ピストンピンが通しにくい。針金は、ピストンピンを通した後に容易に抜けるように通すべし。
(3)(4)(5)最初は木製ブロックを2段重ねにし、ピストンリングがはみ出さないように注意しながら#2のピストンを下げ、ピストンピンを通してクリップを装着する。その後、同じ手順で#3のピストンピンを通してクリップを装着する。
(6)(7) 小さいほうの木製ブロックを外してシリンダーを下げ、#1のピストンピンを通してクリップを装着した後、反対側に回って#4のピストンピン〜クリップを装着。あとは木製ブロックを外し、シリンダーを所定の位置まで下げるだけである。

単体のシリンダーに1個ずつピストンを挿入していく作業は、楽な姿勢で落ち着いてでき、失敗の可能性は非常に低い。
クランクを固定してもコンロッドがぶらぶらではやりにくいので、針金をからげて立たせておく。針金はあとで隙間から除去する。
大小2個の木製ブロックの高さまでシリンダーを下げる。このときの位置は#2&#3のピストンピンを通せるギリギリの高さだ。
リングがはみ出さないように最新の注意を払いながら、スリーブに干渉しない位置までピストンを下げ、ピストンピンを通す。
クリップを装着。反対側はシリンダーに挿入する前に装着済み。赤枠内に示した形状のプライヤーだと失敗しにくい。
小さいほうの木製ブロックを取り払い、大きいほうの高さまでシリンダーを下げる。#1&#4のピンがギリギリ通る位置である。
外側にある#1&#4のピストンピン挿入は、#2&#3よりもうんと楽。この後クリップを装着すればピストンの取りつけは完了だ。


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