XJ900の爽快チューン
2010年2月13日 - クランクケース内圧について考える - 減圧の危険性と問題点(2)   
     
■気油分離とバルブ位置の問題
 減圧のためにクランクケース内の空気を抜く…といっても、気体だけを抜くのは非常に難しい。運転中のクランクケース内は暴風雨ならぬ暴風油状態であり、空間という空間はすべて霧状のエンジンオイルで満たされているといって過言ではない。
 この、霧状のオイルを大量に含んだ空気をそのままクランクケース外に出し、エアクリーナーボックスに送り込めば、ボックス内がオイルでベトベトになるのはもちろん、霧になって外に出た分だけクランクケース内のエンジンオイルが減少する。
 で、クランクケースから外に出る空気に含まれたオイル分を取り除くために、ブリーザーホース取り出し口のところに気油分離室(セパレーター)を設けるのが通例である。
 その構造は、一見複雑に見えて、考え方は簡単。空気の通路を迷路状にし、曲げたり広げたり絞ったりを繰り返しているだけだ。ブローバイガスを含む空気の分子よりも霧にな
ったオイルの粒のほうが重いから、運動の速度や向きが急に変わったときに、オイルは空気ほど身軽には動けない。失速したり行きすぎたりしながら、迷路の中で次々と壁面に衝突しては捉えられていく。
 では、迷路が長く/複雑であるほ

ど気油分離はうまくいくのか? 答えは、ほぼイエスである。
 しかし、クランクケース〜ブリーザーホース間に長く複雑な迷路があると、空気の流れに対する抵抗が大きくなる。これによってクランクケ
ース内の空気が抜けにくく、せっかく減圧バルブを装着しても、充分な効果が得られなかったりする。
 少々乱暴に言ってしまうと、減圧効果(差圧利用の自然減圧の場合)を高めるためにはブリーザー通路が短く単純なのが望ましく、気油分離効果を高めるためには長く複雑なのが望ましい…ということになる。
 ところが、気油分離をちゃんとせずに減圧バルブを装着するとトラブルが生じやすい。通常、ブリーザーホース内壁に付着したオイルは(エアクリーナーからクランクケースに向かって下り勾配がある限り)重力によってクランクケースに戻る。ところが、減圧バルブ(逆止弁)があれば、そこに溜まってしまう。
 溜まるといっても、大した量ではなく、その量が増え続けるわけでもない。バルブの封止面よりも上側に常に少量のオイルがまとわりついている状態…といえばいいだろうか。
 増え続けない代わり、なくなりもしないのは、オイルの重量/空気の流速/表面張力などの平衡によるも

ので、一定以上の重量になればバルブが開いた隙にクランクケース側に逆流し、一定以上の流速になればエアクリーナーボックス側に飛ばされているのではないかと想像できる。
 バルブ封止面付近に溜まったオイルは、過熱〜冷却を繰り返すことにより粘度が高くなったり、ブローバイガス中に含まれる水(水蒸気)と混ざって乳化したりする可能性がある。いずれも、正常なバルブの動きを妨げ、期待どおりの減圧効果が得られない原因になるだけでなく、最悪の場合はクランクケース内圧が高まり、オイル漏れやシールの吹き抜けなどのトラブルが予想される。
 簡単な改造(基本的にはブリーザ
ーホースの中間に減圧バルブを取りつけるだけ)で多大な効果が得られるにもかかわらず、メーカーが正式採用しないのは、上に書いた最悪の場合を想定しているからである。
 減圧バルブを使用する場合は、これらの危険性について熟知し、頻繁な点検と必要に応じた清掃が必要なのはもちろん、冬場は結露しにくい環境でマシンを保管する、長期放置後の再始動前には減圧バルブの清掃をする、エンジンオイルを(規定レベル以上に)入れすぎない、増粘の疑いがあるオイルを使用しない…などの注意が必要である。


<  ひとつ前 ・ 目次 ・ 最新 ・ ひとつ先  >
 
ARCHIVESARCHIVES TUNINGTUNING DATABASEDATABASE HOMEHOME Network RESOURCENetwork RESOURCE    DIARY